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岡山地方裁判所 昭和33年(行)8号 判決 1962年7月25日

岡山市下之町二八番地

原告

藤原道子

市弓之町七二番地

原告

藤原暉夫

市下之町二八番地

原告

藤原弘

右原告等訴訟代理人弁護士

森末繁雄

岡山市

被告

岡山税務署長

中大路義方

右指定代理人検事

森川憲明

上野国夫

法務事務官 中田武夫

赤本昊

大蔵事務官 小林次男

米沢久雄

田原広

中本兼三

浅田和男

右当事者間の不当課税取消事件について次のとおり判決する。

主文

原告等の請求はいづれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「被告が原告等に対してした(イ)昭和三三年二月二七日付の再評価税に関する別紙第一目録記載各決定処分及び(ロ)同年三月一日付の昭和二七年度分の所得税に関する別紙第二目録記載の各決定処分はいづれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決をもとめ、その請求原因として、「

一、(一) 被告は原告等に対し、原告等が昭和二七年中に別紙第三目録記載の土地(以下本件土地という)を訴外藤原孝徳に贈与したものとして所得税を算定し、昭和二七年度の譲渡所得税額を別紙第二目録記載の通り決定し、昭和三三年三月一日、同日付の右決定通知を送付した。

これに対し原告等は直ちに被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年四月一日これを棄却し、右は同年四月一二日頃原告等に通知された。

そこで原告等はこれに対し広島国税局長に対し審査の請求をしたがこれも棄却され、右は同年九月二五日原告等に通知された。

(二) 被告はまた右(一)と同様の理由により、原告等に対し本件土地の再評価税額を別紙第一目録記載の通り決定し、昭和三三年三月一日同年二月二七日付の右決定通知を送付した。

これに対し原告等は、広島国税局長に対し審査の請求をしたところ、同人は同年七月一二日これを棄却し、右はその頃原告等に通知された。

二、右各決定処分には次のような瑕疵がある。

(一)  原告等は本件土地を右藤原孝徳に贈与していない。もつとも原告等(及び訴外藤原妙子)は右孝徳に本件土地を贈与する趣旨の書面(乙第六号証)を作成してはいるが、右作成に至つた事情は次の通りである。即ち、原告道子の亡夫、原告暉夫、同弘(及び右妙子)の父(以下単に原告等先代という)亡久信は勤務の都合上岡山市に在住していなかつたので、本件土地を含めその所有の土地の管理を実弟である孝徳にまかせていたが、右久信が昭和二四年四月二四日死亡したので原告道子は一日も早く岡山市に立戻り生計の途を講ずる必要があつたため取急ぎ孝徳に相続により原告等の所有となつた、土地の返還を要請したが、同人はこれに応じなかつた。そこで種々話合の結果、岡山市下之町所在の土地の半分を貸して欲しいという孝徳の要求に応じ、右土地の南半分を同人に使用させ北半分を原告道子が使用することになつたが、その際孝徳は本件土地を同人に贈与する趣旨の書面の作成を強要したので、原告道子は土地を使用したさに右書面に(原告暉夫、同弘等については、同人等が当時未成年者であつたのでその法定代理人として)形式上捺印したもので、右は同原告の真意に基くものではない。従つて贈与契約は成立していない。

(二)  仮りに贈与契約が成立したとしても、右は無効である。即ち原告道子が右のように孝徳に十地の返還を要請した当時、同原告は戦災のため無一物となり加うるに夫死亡直後のことで三人の子供をかかえて生活に困窮しており、右下之町所在の土地において営業することを切望していたものである。ところが孝徳は右の如く右土地を占有しているのをよいことにしてこれが返還を拒んで同原告を困却させ、その挙句右の如く、右土地の北半分を同原告に使用させることとするのと引かえに、同原告を強要し、或は後にのべるような偽計を用いて本件土地を贈与させたものである。このように孝徳において原告道子の困窮に乗じ、且つ強要と偽計を用いた結果成立した贈与契約は民法第九〇条に違反するものというべく無効である。

(三)  また右贈与契約のうち岡山市下之町三二番の土地に関する部分は孝徳の次の如き詐欺によるものであるから、原告等は昭和三〇年一〇月頃口頭で、その後念のため同年一二月二四日付内容証明郵便(到達はその頃)で孝徳に対し夫々これが取消の意思表示をした。即ち、孝徳は前示贈与契約の際原告道子に対し、右三二番の土地は将来都市計画により減歩され一坪位しか残らないから併せて贈与されたい旨申向けたので同原告はこれを信じこれをも贈与することとしたところ、右土地は実際には殆ど減歩されなかつた。従つて原告道子は孝徳に欺罔されて右土地を同人に贈与する契約をしたものというべきである。

(四)  また右贈与契約のうち原告暉夫、同弘に関する部分は無効である。即ち、同原告等に関する部分は同人等が当時未成年者であつたため親権者たる原告道子においてこれを代理してしたものであるが、右は原告暉夫、同弘と同道子との利益相反行為である。けだし、原告道子は前述の如く前示贈与と引換えに明渡を受けた地上に同原告名義の建物を建築所有し、右建物を基礎として訴外明菓株式会社を設立してその代表者となつているが、原告暉夫、同弘は右建築及び会社の設立によつて何等益するところはないのであつて、右よりすれば右贈与は原告道子のためにのみ利益であつて他の原告等にとつては全く不利益だからである。なお、本件土地は右贈与当時においても数百万円以上の価値を有していたものでありこれを原告道子が単独で孝徳に贈与することは未成年者である他の原告等の利益を甚しく侵害するもので不当極るものである。従つて原告暉夫、同弘のため選任された特別代理人によらないでなされた右贈与契約は無効である。

三、従つて前示贈与を前提としてなされた前掲記の各決定処分は違法であるからこれらの取消をもとめる。

」とのべ、立証として甲第一乃至第三号証、第四号証の一、二、第五、第六号証、第七号証の一乃至三、第八、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一、第一二号証を提出し、証人吉田孝一、同福島寛吾、片山真一の各証言及び原告道子、同暉夫の各本人尋問の結果を援用し、乙第一一号証及び第一三号証の成立はしらないがその余の乙号各証の成立は認める、とのべた。

被告指定代理人は主文と同旨の判決をもとめ、請求原因事実に対し「

一、原告主張の一、記載の事実はすべて認める。

二、右二、記載の事実について。

(一)  原告等(及び訴外藤原妙子)は昭和二七年八月二〇日付書面により本件土地を孝徳に贈与したものである(但し、原告道子を除くその余の原告等及び妙子は当時未成年者であつたので原告道子がその決定代理人としてなした)。

(二)  孝徳が原告等主張のように原告道子を強要したこと及び同原告に対し詐欺を行つたことは否認する。

(三)  右贈与契約は原告道子と原告暉夫、同弘との利益相反行為ではない。

三、原告主張の各決定処分の事実上及び法律上の根拠は次の通りである。

(一)  原告等先代亡久信は昭和二四年四月二四日死亡し、原告等及び前示妙子が相続したがその相続分は原告道子につき三分の一その余の原告等及び妙子につき各九分の二である。

原告等及び妙子は本件土地を贈与したのであるから、贈与時の時価により資産の譲渡があつたものと看倣され(所得税法-昭和二七年当時施行のもの、以下同じ-第五条の二)譲渡所得に対する所得税を納めなければならないが、原告等が本件土地を取得したのは右の如く昭和二四年四月二四日であるから、資産再評価法第九条第一項(昭和二七年当時施行のもの、以下同じ)により同法の規定により再評価を行つたものと看倣されるので、所得税法第一〇条の五第二項等により算出される所得税のほか再評価税をも納めなければならない(但し、妙子については居住地が異るので本件各決定処分からは除外されている)。

(二)  再評価税額の算出について

(1)  原告等が本件土地を取得したのは右の如く昭和二四年四月二四日であるが、これは相続によるものであるので、被相続人の取得の時期が取得の時期とされ(資産再評価法第二九条第一四号)、右は昭和二一年三月三日午前〇時(財産税調査時期)以前である。資産の取得が右時期前の場合の再評価税額は、再評価差額から一〇万円を控除したものに(同法第三七条第二項)、同法第四四条所定の税率一〇分の六を乗じたものである。右再評価差額は再評価額から財産税評価額を控除したものであり(同法第四二条第四項)再評価額は財産税評価額を一五倍したものであり(同法第二一条第二項)、而して財産税評価額は当該資産の賃貸価格に当該資産所在地の所轄財務局長が不動産評価委員会に諮問して定めた一対倍数を乗じた金額である(財産税法第二五条第一項、第二六条第一項)。以上を式により示すと次の通りである。

<省略>

そうして、本件土地の各賃貸価格は(第三目録記載の順による)夫々六七四円四〇銭、七七九円二〇銭、八六円三九銭であり、これに乗すべき一定倍数は(同前)夫々三〇、三〇、五〇であるから、本件土地の再評価差額は合計六七万一、〇七三円となる。

(2)  本件土地についての原告道子の持分即ち相続分は三分の一であるから、その再評価差額は二二万三、六九一円となり、右式により計算すると(但し一〇〇円未満及び一〇円未満は夫々国庫出納金等端数計算法第五条により切捨てる以下同じ)、その再評価税額は七、四一〇円となる。なお本件決定処分が右再評価税の申告期限である昭和二八年二月末日の翌日から起算して三カ月以上を経過した後に行われているから、資産再評価法第八〇条第一項、第二項により一、〇〇〇円未満を切捨てた右再評価税額七、〇〇〇円に一〇〇分の二五を乗じて得た一、七五〇円の無申告加算税をも同原告は納めなければならない。

原告暉夫、同弘の持分即ち相続分は夫々九分の二であるから、右の原告道子の場合と同様にして算出するとその再評価税は夫々二、九四〇円、無申告加算税額は夫々五〇円となる。

(三)  譲渡所得税の算出について

(1)  本件土地は前述の如く資産再評価を行つたものと看倣されるので、その譲渡所得は、当該資産の時価から当該資産の再評価額と昭和二四年一二月三一日以降に支出した設備費、改良費及び譲渡経費を控除したものであり(所得税法第一五条の五第二項)これから同法所定の控除額一五万円を控除した額に同法一五条第一項所定の税率を適用したものが譲渡所得税額となる。

そうして本件土地の贈与当時の時価の算定は困難であつたので相続財産の時価算定方法である賃貸価格に富裕税財産評価基準によつて定められた評価倍数を乗ずる方法によつたが、本件土地の各賃貸価格は前述の通りであり、右倍数(昭和二六年一二月広島国税局作成、昭和二六年分富裕税財産評価基準による)は一、一五〇であるから、本件土地の時価合計額は一七七万〇、九八八円となり、これから再評価額合計七一万九、〇〇〇円を控除した(なお、右以外に控除さるべさものに本件の場合存しない)一〇五万一、九八八円が本件土地の譲渡所得の合計額となる。

(2)  本件土地についての原告道子の持分即ち相続分は三分の一であるからその譲渡所得額は三五万〇、六六二円であり、右により計算すると(なお、端数の処理については、再評価税の場合と同じ)その譲渡所得税額は五万円となる。なお本件決定処分が譲渡所得税の申告期限である昭和二八年二月末日の翌日から起算して三カ月以上を経過した後に行われているから同法第五七条第三項により右税額に一〇分の二五を乗じて得た一万二、五〇〇円の無申告加算税をも同原告は納めなければならない。

原告暉夫、同弘の持分即ち相続分は夫々九分の二であるから、右の原告道子の場合と同様にして算出するとその譲渡所得税額は夫々一万六、七五〇円であり、また同法第五七条第六項、第三項により一、〇〇〇円未満を切捨てた右所得税額一万六、〇〇〇円に一〇〇分の二五を乗じて得た四、〇〇〇円が夫々の無申告加算税額となる。

」とのべ、立証として乙第一号証の一乃至四、第二号証の一、二第三乃至第一三号証を提出し、証人藤原孝徳(第一、二回)、山崎隆平の各証言を援用し、甲第六号証中吉田孝一に関する部分、第七号証の一乃至三、第九号証中郵便官署作成部分を除くその余の部分の成立はいづれも知らないが、第六、第九号証中のその余の部分及びその余の甲号各証の成立はすべて認める。とのべた。

理由

一、原告等は藤原孝徳に本件土地を贈与したかどうか及び右贈与契約の効力。

(一)  いづれも成立に争いのない甲第一、第三、第八号証、乙第五号乃至第七号証、第一二号証、藤原孝徳に関する部分につき証人吉田孝一の証言により真正に成立したと認める甲第六号証に、同証人、同中山真一、同藤原孝徳、同山崎隆平の各証言並びに原告道子の本人尋問の結果(但し証人吉田、同藤原の各証言及び原告道子の本人尋問の結果のうち後に措信しない部分を除く)及び弁論の全趣旨を合せ考えると次の通り認められる。

原告等先代亡久信は岡山市内に本件土地を含め土地を所有していたが、その管理を実弟である孝徳に委せていた。右久信は昭和二四年四月二四日死亡し原告等及び訴外藤原妙子はこれを相続したが(この事実は当事者間に争がない)、その後数年して昭和二七年頃原告道子は本件土地及びこれに隣接する岡山市下之町二七番地の第二及び同所二八番地の土地が岡山市の中心の目抜通りにあることから(この事実は当裁判所に顕著な事実である)此処において生計の途を樹てようと考え右孝徳に対しこれが返還方を訴外吉田考一を介して要求した。右吉田は孝徳と折衝のすえ結局、孝徳は同人が当時家屋を建てて占有中の右土地の北半分即ち右二七番の第二、二八番の二の土地を原告道子に返還することとしたが、その際右土地の南半分即ち本件土地を贈与して欲しいと要求したので原告道子は諸般の事情を考慮してこれを承諾し、本件土地は原告等(及び訴外藤原妙子)から孝徳に贈与されることになり(原告道子以外の原告等及び妙子は当時未成年者であつたので原告道子においてこれらを代理する)まず同年七月一二日付で売渡予約証言(乙第一二号証)が作成され、これに基いて同年八月一二日仮登記がなされ、ついで同年八月二〇日付で贈与証書(乙第六号証)が作成された。本件土地のうち三二番の土地は他の二筆の土地とは少し離れているが、当時右二筆の土地や前示二七番の第二、二八番の二の土地について都市計画による減歩が予想されており、もし減歩されるような場合にはその代償に右三二番の土地を提供する(そうすると右土地は殆ど残らなくなるであろうと当時考えられていた)心算であると孝徳はのべ、右贈与当時原告道子も前示吉田もこれを了承していた。かように認めることができ証人吉田、同藤原の各証言及び原告道子の本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信せず、証人吉田、同福島寛吾の各証言及び原告道子の本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第七号証の一乃至三並びに証人福島の証言は未だ以て右認定を左右するに足らず他に右認定に反する証拠はない。

(二)  右認定の事実によれば本件土地の贈与契約は本人並びに原告暉夫、同弘(及び訴外妙子)の法定代理人としての原告道子の真意に基くものというべく、原告等の二(一)の、主張は認め難い。

また右贈与契約成立の経緯は右認定の通りであり、そこには原告等主張の事実のみならずその他右契約が公序良俗に反するものとする徴憑を何ら認めることができないから、原告等の右二(二)の主張は理由がない。

更に原告等の右二(三)の主張は、原告等の全立証によるも孝徳において原告道子を欺罔したと認めるに足らず、かえつて三二番の土地については孝徳と同原告との間に右認定のような了解があつたにすぎないものと認められるから、更に判断するまでもなく理由がない。

最後に原告等の右二(四)の主張であるが、本件贈与契約は子である原告暉夫、同弘(及び妙子)の財産を処分する行為ではあるが、親権者である原告道子の利益と外形的に結合するものではないから、これを以て親権者と子との利益相反行為ということはできない。原告等主張の如き事実があるからといつて、それだけで右が利益相反行為となるものではない。従つて本件贈与契約のうち原告暉夫、同弘に関する部分が原告道子の無権代理行為として効力を生じないものということはできない。

(三)  従つて原告等は本件土地を昭和二七年八月二〇日贈与したものであり、且つ右贈与契約は有効であるというべきである。

二、譲渡所得税(及び無申告加算税)と再評価税(及び無申告加算税)の決定処分とその税額について。

原告等が本件土地を右の如く贈与したことにより譲渡所得税と再評価税を納めなければならない所以は被告主張の通りである。そうして、右各税額算出の根拠となる本件土地の賃貸価格再評価税算出の基礎たる倍数並びに譲渡所得税算出の基礎たる倍数が被告主張の通りであること及び右の算出にあたり控除さるべき他の経費等が被告主張の如く存しないことについては原告等は明らかに争つていない。従つてこれらに基き被告主張のような経緯により原告等の再評価税額及び譲渡所得税額を被告主張の如く算出したことについては何ら瑕疵は存しない。また右各税の決定処分が、右各税の申告期間である昭和二八年二月二八日の翌日から起算して三カ月を経過した後に行われていることは原告等の主張自体から明らかであるから、原告等は被告主張の根拠によりその主張の税額の無申告加算税をもまた納めなければならない。

従つて破告の前示各税の決定処分には何らの瑕疵も存在しない。

三、以上認定の通り本件各決定処分にはその前提となる事実についても、またその内容についても瑕疵は存しないからこれが取消をもとめる原告等の請求は理由がない。

よつて原告等の請求はいづれもこれを棄却すべく、なお訴訟費用につき民事訴訟法第八九条同第九三条を適用のうえ主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 辻川利正 裁判官 川上泉 裁判官 矢代利則)

第一目録

<省略>

第二目録

<省略>

第三目録

岡山市下之町二八番

一、宅地 三三坪七合二勺

同 所二九番

一、宅地 三八坪九合六勺

同 所三二番

一、宅地 二六坪一合八勺 以上

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